初恋のオールデン
甘酸っぱい初恋から10年。大人になった僕はオールデンに初めての恋をした。
時は21世紀前夜、ミレニアムで湧いた2000年冬。
バーニーズニューヨーク新宿店で僕は生まれて初めてオールデンに出逢った。
アントワープ系の学生時代
ファクトリーブランドが好きな仲の良い同期からオールデンの素晴らしさを聴いてはいたものの、実際に手にとってみるのは初めてだった。
当時、僕は社会人一年目で学生時代から好きだったアントワープ系のファッションを身につけていた。
ワンシーズン限りでクローゼットを入れ替える必要のあるアントワープ系ファッション。
世界でひとつだけしか無い特徴的なデザインは、当時若さ以外に取り柄のない僕の心を鷲掴みにしていた。
そんな僕から見ればファクトリーブランドに全身を包んだ同期は正直ただのおじさんにしか見えなかった。
なぜ彼はこんなおじさんコスプレをしているのか。最初はかわいそうだから僕がファッションの指導をしてやろうと思ったくらいだ。
初めて耳にするオールデンという言葉
しかし彼は研究室からそのまま出て来たようなおじさんとは何故かちょっと違う。
派手さはないが上質な生地を使った仕立ての良いスーツ、きちんとサイジングされたシャツに包まれた彼がなんだかとてもお洒落に見えて来たのである。
そして彼に何の靴を履いているのかを聴くと「オールデン」と言う。
初めて聴く単語に違和感を覚えた。
ダークビッケンバーグの靴に憧れていた当時の僕からしてみれば、オールデンのぽってりとした特徴の無い顔に、こんなオッサン靴を履いたら合コンにいけない、いや会社にすら行きたくないと強く思った。
今思えば彼はオールデンプレーントゥバリーラスト。そう、オールデン9901を履いていたのである。
彼は穏やかで自信に満ちあふれた顔で続ける。
「オールデンは革が二種類ある。ひとつは6万円台、ひとつは8万円台。君も買うといいよ」と。
こんなオッサンの権化みたいな靴が8万円なんて世の中狂っている。
見た目と価格の隔たり
しかしながら人間とは不思議なものだ。
オッサンみたいな靴が8万円もするという事実が飲み込めなさすぎて、だんだんオールデンが気になって仕方が無くなっていた。
一見、見向きもされないようなクラスで一番ダサい男の子がクラスで一番かわいい女の子と付き合っていると「彼はきっとスゴいところがあるに違いない」と思い込んでしまうことに似ている。
経営学的に言えば「クラスで一番かわいい子の彼氏」という「権威づけ」されている状態だ。
つまり当時の僕は「8万円という価格に権威づけされたオールデン」がすごいものだと思わずにはいられない状態に陥っていた。
バーニーズニューヨーク新宿店
そしてふと気がつくと僕はバーニーズニューヨーク新宿店の5Fにいたのである。
今でこそユニクロと同じような感覚でバーニーズに行くが、当時はバーニーズニューヨークに行くのも少し緊張していた。
バーニーズのドアマンがドアを開ける際、自分を一瞥するような気がしていて、それに負けないように背筋を伸ばし、少しでも自分を大きく見せながら入店していた。
まるで子供だ。いや発情期の攻撃的な動物に近い。
初恋のオールデン
バーニーズニューヨークで初めて出逢ったオールデンは同期が履いていたものと少し違っていた。細身でスタイリッシュ。そしてシューツリーに刻まれたサイン。
そう、それはバーニーズニューヨーク限定のミレニアムモデルオールデンだったのだ。
ミレニアムモデルの美しきオールデンに僕は瞬時に恋をした。まるで小学校時代に初めて恋に落ちた時のように。
コードバンとカーフの違いもわからなかった当時の僕はプラザラストを履いたスタイリッシュな身体、少女のような肌、そして初めてオールデンを手にすること自体に高揚感を抱かずにはいられなかった。
それが僕の最初のオールデン。マイファーストオールデンである。
初恋の苦悩
そして、そこから初恋の苦悩が始まった。
僕の買ったオールデンはカーフモデル。バーニーズのスタッフからタイト目で履くことを勧められた僕は7.5Dを選んだ。
今考えればプラザラストの7.5Dなんてよく履いていたと思う。
外反母趾になるんじゃないかと思うくらい毎日激痛と戦っていた。それでも葉加瀬太郎の「私は英国靴が好きで履き始めは血が出るんじゃないかと思うくらい痛いが、それを乗り越えると快楽の世界が待っている」という言葉を信じ履き続けた。
そして別れ
しかし結局、僕の初恋は実らなかった。
痛みに耐えながら折り合いをつけて履いていたが、だんだんと一緒にいる時間が少なくなっていく。お互い好きなのに逢えない。いや逢おうと思えば逢えるのに傷つきたくなくて逢おうとしない。
そんなやるせない日々が続いたある日、僕は同じバーニーズニューヨークで手にしたクロケット&ジョーンズに浮気をしたのである。
僕の足を優しく包み込むクロケット&ジョーンズの愛。
若さゆえに恋に落ち、傷ついた僕の足をゆっくりと癒すクロケット。
だんだんと心奪われていく日々。
僕は初めて愛したオールデンをクローゼットの片隅にしまいゆっくりと箱を閉じた。
こうして僕の初恋は終わったのである。
再会
そんな僕が愛した最初のオールデン。
クローゼットの奥から十数年ぶりに取り出して愛情を込めて磨いたマイファーストオールデンをご紹介しよう。
僕の愛するオールデン
- ブランド:Alden/オールデン
- モデル:Plain Toe/プレーントゥ
- 型番:5137Y
- カラー:Black / ブラック
- マテリアル:Calf Leather / カーフ
- ラスト:Plaza Last / プラザラスト
- サイズ: 7.5D
- ショップ:バーニーズニューヨーク