同窓会とは
未開拓の土地
人は大人になると初めて経験することが少なくなり、海外に行っても、美味しいものを食べても以前のように感激することが無くなってくる。いや感激はもちろんするのだがそれは穏やかで安定的なものに変わる。
大人になるということは、人生の経験を重ね、地図を塗りつぶしていく行為に近い。初めての土地は緊張と感動が入り混じり、そしてそれは時間とともに平和と安定につながる。
しかし大人にとって、いや大人だけにしか味わえない未開拓の土地がある。
それが同窓会だ。
小学校卒業以来の同窓会
僕は小学校卒業以来初めて開催される同窓会に行った。
正直同窓会に行くかどうかは迷った。クラスでそれなりに存在感を示していた自分が現在それに見合う活躍をしているか確信が持てない。25時まで仕事をしてそこから上司と飲み、部下の愚痴を聞く。夜中の3時半にラーメンを食べてタクシーで帰宅する。そんな生活を繰り返している自分が輝いているかどうか自信が持てないのは当然だった。
なにより初恋の子と会った時に年を重ねた自分に幻滅されるかもしれない。
海外出張が多いから行けるかどうかわからないと幹事には伏線を張っていた。
実際、先週は海外出張に行っていたし、今週末は海外からパートナー先のCEOが来日しており同窓会をドタキャンするには十分すぎる理由もあった。
しかし前日に小学校時代の親友から10年ぶりの電話があり近況を報告しあっているうちに出席する決意を固めた。
再会
1時間ほど遅刻して店に入る。緊張しながらテーブルの場所を探しているとこちらが気づくよりも早く当時の僕のニックネームで恩師が声をかけてくれた。一気に緊張が解れる。そして恩師の隣には初恋の子が座っていた。僕と初恋の子が恩師を挟む形で同窓会はスタートしたのだ。
卒業以来数十年ぶりに会う同級生たちは皆きちんとした大人になっており、それでもしっかりと小学校時代の面影を残していた。
そこは現在と過去が入り混じる極めて稀有な空間。
時空を超えるとはまさにこのことで一瞬でタイムトリップできる夢の国に訪れたような感覚に襲われる。まるでディズニーランド、いやそれとは次元が違う。
同級生たちの現在と過去が入り混じり、お互いの人生の物語が重なり合い、呼応する。自分はここで創られたのだと身体の奥底が唸りをあげる。
タイムマシンに乗って
皆で手を繋ぎ「いっせーのっせ」でタイムマシンに乗って30年前に旅立つ、そして小学生時代の自分と同級生たちが校庭から宝探しをするように想い出のかけら達を拾ってくる。
面白いのが、30年前の想い出は皆ぞれぞれ覚えている場面や出来事が違うことだ。修学旅行の想い出やグループデートの想い出、初恋の想い出など様々な話題が次から次へと出てくる。しかし皆の記憶は断片的、タイムマシンの性能は極めて限定的なのだ。
しかし20台近いタイムマシンで皆がそれぞれの想い出を語り合うことで、断片的な想い出話がだんだんと紡ぎ合わせられていく。まるでジグゾーパズルを重ね合わせて行くように生き生きと鮮明に想い出が蘇って来るのだ。
この人生で一番面白いパズルゲームを解いて行くために我々はテーブルごとに手を繋ぎ、ポンコツのタイムマシンに乗って小学校時代に戻り、断片的なピースを集めて現在に戻る。
そして大人になった賢い頭でそのパズルを解き明かす。
あるいはタイムマシンに細工をして美しい記憶で塗り替えているかもしれない。
でもそれでも良いのだ。
その全てが同窓会ワンダーランドであるのだから。
学校は思い出つまった憩いの場
小学校六年生に担任をしてくれた恩師とも想い出話に花を咲かせた。
僕にとって「先生」といえば小学校六年生の担任であり、人生の楽しさを教えてくれた最高の教師だ。学校に行くのが毎日が楽しくて仕方がなかった。
先生とのインタラクティブなコミュニケーションで創られる授業はどんなアトラクションよりも面白く、華やいでいて、これから大きく広がる未来に夢と希望が満ち溢れていた。
そして、そこで学んだ全てが僕を創り上げている。
「学校は想い出つまった憩いの場」
国語の授業で小学校六年生の僕が書いた川柳だ。当時、先生が褒めてくれたから今でもこの川柳を書いたことをよく覚えている。学校が楽しくて仕方がなかった、それを象徴するような言葉だ。
初恋のピース
小学校六年生のクラスには僕の初恋の子もいた。
本当に大好きで毎日学校に行くのが楽しくて仕方がなかったのは彼女の存在が大きかった。
30年ぶりに逢った彼女は小学校時代の可愛らしさをしっかりと残したまま、目を見張るような美しい女性に成長していた。正直、二児の母とは思えない。美しく、極めて若い。そしてあの頃の笑顔は変わらない。大好きだったえくぼもそのままだ。
同窓会で一気に童心に帰った僕がタイムマシンに乗って最初に拾って来た断片は「初恋」のピースだった。
そして大人に戻りその「初恋」のピースを高々と掲げ「僕は小学校の時、彼女が大好きだった!」と恩師も含めた皆の前で堂々と宣言する。
すると今回の幹事役でもある彼女の親友が「彼女もあなたのこと大好きだったんだよ!」とまるで絵に描いたような出来過ぎのエピソードで場を盛り立てる。
嗚呼、ドラえもんを叩き起こして今すぐタイムマシンであの小学校の校舎に戻りたい。
そして当時の俺に言いたい「とにかく告れ!俺!いいから告るんだ!!俺!!!」と。
30年という時の長さの意味
しかし30年の時というのは余りにも長すぎる。時に残酷であり、時に優しさを持つ。そんな長さだ。
これが卒業から10数年程度のエピソードであれば人生が大きく転換するドラマのような話にもなりそうなものだが、30年という時間はこんな残酷なエピソードをも優しく想い出に変えて行く。
初恋のピースをポンコツのタイムマシンに乗ってそっと小学校の教室に置いて帰って来た。
美しくエイジングされたオールデンのシワは人生そのものだ。そのシワは決して元に戻すことはできない。たとえ美しく磨き上げることができたとしても。だからこそ人生は美しいのだ。
ワンダーランド
同窓会。
それは大人になって初めて経験することができるワンダーランド。
タイムマシンに乗って想い出のかけらを拾い、仲間と美しい物語を紡ぎ、そしてまたそのピースを元の場所に戻す。
人生にとってきっと大切であろうそんな作業を繰り返す場。
そして12時になればそれぞれの家庭に帰るシンデレラストーリー。
数十年ぶりに初恋の子と会い、恩師と酒を交わし、恋敵と肩を組み合う。
もしあなたが同窓会に出席することに躊躇していたら迷わず出席することだ。
そして大人しか味わえない素敵な夜を味わって欲しい。
2017.4.15 Alden Style